絶望的な原発の後始末:ドイツでの事例紹介

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福島第一原発の惨状(AP)
写真(福島第一原発の惨状) 出典はAP

 モノづくりをする会社は商品のライフサイクル全体に渡って社会的責任を負っています。具体的には、部品の調達、製造、出荷、納品、保守、廃棄、といったところが思い浮かびます。今回は最終段階の廃棄について考えてみましょう。

 商品は複数の部品で構成されていることが多いので、まず分解(dismantle)しなければなりません。その後、リサイクルできる材料は再利用しますが、使えない部分は埋め立て廃棄します。その場合、環境に悪影響を与えてはいけないので、有害物質などは使わないように設計者は配慮しなければなりません。一般的な商品の場合、きちんと手順を守れば分解・再利用・埋め立ての際に過度の時間・費用・手間・危険が生じることは殆どないと思います。しかし、福島の事故(Fukushima disaster)以降注目が集まっている原子力発電所(nuclear power plant)は別です。

 日本には将来的に廃炉(decommissioning)にしなければならない原発が50基以上もあります。稼働する前に周囲住民の避難計画を立てなければならない厄介な発電システムは、使われなくなった後も負の遺産として社会に莫大な迷惑をかけ続けます。迷惑の内容を項目ごとに見て行きましょう。

1)廃炉作業に途方もない時間がかかる。
 放射能レベルが高い(too radioactive)と分解できませんから、何十年も待たねばなりません。分解を始めてから完了するまでも十年単位の時間がかかります。まだ、生まれてもいない、この世に存在しない将来の作業者に期待するしかないんですね。

2)廃炉作業には途方もないお金がかかる。
 原発の規模や状態にもよると思いますが、一基で数千億円という費用が掛かるのが普通です。建設に数千億円かかり、廃炉にも数千億円です。気が遠くなりそうです。全部、我々が払う電気料金から支払われます。

3)廃炉する作業者が危険に晒され続ける。
 現場で分解作業をするのは生身の人間です。防護服を身に付けても放射能を防ぐことはできません。一日当たりの上限値を超えないように作業時間は制限されているとはいえ、一般人よりもはるかに多い放射線を長期間浴びている訳ですから健康へのリスクは高いです。実際に、体を壊す人はとても多いのです。ブラック企業も真っ青の非人道的な職場だと言えるでしょう。

4)廃炉する過程で発生する大量の放射性廃棄物を処分する場所が見つからない。
 放射性廃棄物自体が危険な上に、それを生み出した原子力村が信用されていませんから受け入れてくれる自治体は見つからないでしょう。今のままだと、事故を起こした福島原発周辺が放射性廃棄物の最終処分場(final disposal site)にされてしまいそうです。

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5)高レベル放射性廃棄物は10万年以上管理し続けねばならない。
 放射性廃棄物の中でも高レベルの物は地下深いところで10万年以上保管する必要があります。放射性物質の半減期が何万年という単位だからです。人類が滅亡した後も管理し続ける方法があるんですかね?こういうのを一般的に無責任と言います。

6)事故を起こした福島原発に関しては廃炉の手段が存在しない。
 これから廃炉技術を研究するそうです。人間が近寄れない場所がたくさんあり過ぎて状況を正確に把握できていないのも大問題です。「状況は完全にコントロールされています。」などと言う政治家の綺麗ごとを信じてはいけません。

安倍総理福島原発コントロール

 廃棄過程でも社会に対して莫大な迷惑をかけ続ける原子力発電所。これが商品の名に値しないことは明らかです。

 毎日新聞英語版の2014年8月20日付記事「Nuclear waste from German plant in decommissioning process has nowhere to go」 、から一部を以下に引用します。福島の事故以降に原発全廃を決めたドイツでも廃炉作業には苦労している様子が解ります。( )内は私の日本語訳です。

「One nuclear power plant here where the decommissioning process began over two decades ago and is expected to take another half century has seen increasing numbers of visitors from Japan since the Fukushima disaster.」
(20年以上前に廃炉作業が始まり、完了までにあと半世紀はかかると思われる原発がある。ここを訪れる日本人は、福島原発事故以来増え続けている。)

「After changing into a protective suit, shoes and hat, I’m given a radiation dosimeter before being led inside the Greifswald Nuclear Power Plant’s interim storage facility for nuclear waste.」
(防護用の服・靴・帽子に着替えた後、線量計を渡された。そして、Greifswald原発の放射性廃棄物暫定貯蔵施設内部に案内された。)

「About 30 cylindrical reactor pressure vessels and steam generators around three to four meters tall lie on their side inside the huge 20,000 square meter warehouse-like building.」
(そこは20000平方メートルはある巨大な倉庫風建物であり、高さが3〜4メートル程ある円柱状圧力容器と蒸気発生器が約30個横たわっている。)

「To completely decommission the plant, reactor pressure vessels that are currently too radioactive to be handled are kept for 50 years until their radiation levels go down.」
(圧力容器の放射能レベルが現在はあまりに高いため作業することができない。レベルが下がるまで50年間待たねばならない。廃炉が完了するのはその後だ。)

「There’s no choice but to leave any further steps toward decommissioning to future workers.」
(廃炉に向けた次のステップは未来の作業者に委ねざるを得ない。)

「Progress on decontamination of high-radiation objects and areas is slow-going, however, since workers are not permitted radiation exposure of more than 200 microsieverts per day.」
(しかしながら、高レベル放射性物質・エリアの廃炉工程は非常にゆっくりとしたものだ。作業者たちは、一日当たり200マイクロシーベルト以上被爆することが禁止されているからだ。)

「Asked about the stricken Fukushima plant, Mencwel says, “The decommissioning process will be much more complicated than usual, since the plant has experienced a disaster. Decontamination is not easy.”」
(破壊された福島原発のことを訊かれてMencwelは次のように述べた。「災害に遭っているから廃炉作業は通常よりもずっと複雑になるだろう。除染は簡単じゃないよ。」)

「The plant has produced 1.8 million tons of waste materials and parts, of which 600,000 tons are contaminated with radioactive substances.」
(その原発から生み出される廃棄材料・部品は180万トンであり、そのうち60万トンは放射性物質に汚染されている。)

「Thus far, 3 billion euros (approx. 410 billion yen) has been spent on dismantling and decontaminating the plant.」
(その原発の分解と除染に対して今まで30億ユーロ(約4100億円)が費やされてきた。)

「The biggest problem yet is where the radioactive waste will be disposed of once the plant is fully decommissioned.」
(その原発が完全に廃炉された時に放射性廃棄物をどこに捨てればいいのか?それが最大の問題として残されている。)

「But no decision has been made on where radioactive waste with half lives of tens of thousands of years will go.」
(しかし、半減期が何万年という放射性廃棄物の行先については何の決定もされていない。)

「Last year, the government decided to scrap plans to use a repository in Gorleben, northern Germany, as a final disposal site. Since Gorleben had been the only candidate, the selection of a final disposal site will probably take until 2031.」
(昨年ドイツ政府は、ドイツ北部Gorlebenの保管所を最終廃棄場所として使う計画を撤回した。Gorlebenは唯一の候補地だったので、最終処分場の選定作業は2031年までかかると思われる。)

以上

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投稿者:

J IWASAKI

J IWASAKI

大学卒業後、民間企業に長年勤めてきました。 英語学習に関しては殆ど独学ですが、TOEICで950点に到達しました。 このブログでは、私が効果的と考えている英語学習方法を紹介しています。 また、英語ニュースに関しても自分の考えを交えながら解説しています。 出来る限り平易に書いていますので、気軽に読んでください。